本質
シェパード犬はその名の示すごとく牧羊犬から改良されたもので、大昔から厳しい自然の中で心身を鍛えられ、性質が怜悧で、体質も強健ですから、犬としてのあらゆる長所を備えていますが、さらに進んで、周知のようにドーベルマン・ピンシェル、エアデール・テリア、ボクサー、ロットワイラーおよびリーゼン・シュナウツァー等と共に、使役犬種に属しており、特に社会、国家公安等の面においては、これらの中でも最も優れた犬種として、人間の持たない特殊な力能を発揮し、警察犬、軍用犬、救助犬等に多く使役されていることは一般的に知られているところです。
このような高度の勤務に服する使役犬は、まず第1に優れた性質、すなわち発らつ鋭敏で、忠実であり、服従心に富み、また怜悧であって、警戒性に富み、どんな誘惑にも迷わされず、しかも大胆で勇気がなければなりません。
次に、優秀な諸感覚と共に高度な能力が要求されるわけですが、これは体格や体質の問題が大きな関係をもつことは当然なことです。
一般に、犬種の大きさに従って、大型、中型、小型および超小型という分類がされますが、シェパード犬は、このうちでは中型に属しています。そもそも使役犬として、前述のようなもろもろの任務を遂行するためには、行動が敏捷で速力があり、運動性と耐久性に富み、しかも必要に応じては戦斗のための力量をもっていなければなりません。小型以下では力量や耐久力が不足であり、また、反対に大型では、多量の骨自体の重みで犬の負担が大きくなり、運動の軽捷性や耐久力が阻害されます。
ですから、この種の使役犬は中型をもって最適とし、シェパード犬は、体高55cmから65cmまでを標準と定めされている所以です。
上記のことからシェパードはいかにも強気で恐ろしい犬のように聞こえますが、決して単純なものではなく、非常に利巧で、忠実性に富み、環境に順応しやすく、取り扱いが良ければ、よく人になつき、服従するものです。適切な訓育、訓練をほどこすことにより、深みが増し、日常生活においてこれほど楽しい犬はいないと言っても過言ではないと思います。
といいますのは、ただ愛玩するというだけでなく、その優れた性能を利用して、多方面の訓練を楽しむことが出来るということが、その理由の1つでしょう。しかもシェパード犬は、前述のような官公の勤務ばかりでなく、民間にあっても本来の特性である牧羊作業や家畜の監視などの外、盲導犬として不幸な盲人の杖となり、家庭にあっては忠実な番犬の役目を果たすばかりでなく、子女の友となって生活にうるおいを与え、情操教育の一役をになうに最も適しています。
フランスの自然科学者ビュフォン(1707-1788)が「シェパード犬は、本来の自然犬と見なければならない。
そして、他のあらゆる犬種は、気候と文化の産物である」といっている通り、シェパード犬は発生学的に見て、最も自然の形態を保持している犬種といえます。こんな犬ですから、ひとたびシェパード犬を飼ったことのある人は、この犬種に深い愛着をもち、長くこの犬種を友とするようになります。
これはシェパード犬が他の犬種より一層深く心の中にくいこんでしまうからでしょう。