太古の人類が早くから犬の警戒性を利用して、その集落の警戒にあたらせていましたが、その後、年代を経てから、人類が人間の五官の鋭敏性その他優れた特性を応用して、人間の及ばない所を補い協力して利益を分かち合うために結ばれた友情は、時代の流れと共に変わり、知能の優れた人類は、その友であり補助者であった犬を制御して召使としました。
しかし、太古の時代から続けられてきた闘争、狩猟の仲間という共感は、今日に至ってもなお続いていて、救助犬、番犬(牧畜、牧羊、家、倉庫等)、猟犬、警察犬、軍用犬と用途が拡大され、ついには盲人に生きがいを与える盲導犬の役割を引き受けるまでに至ったのです。
このように、シェパード犬は各方面に使役されています。
まず本来の任務である牧羊犬を始めとして、警察犬、警備犬、税関犬、鉄道保安犬、軍用犬、災害救助犬、盲導犬、聴導犬、介助犬等ですが、これらの諸勤務や用途に適する稟性や素質がよく、強健な犬を作り出し、教育、訓練によっていずれかの使役にも適応できる基礎を作るにはなんといっても、まず家庭犬としてのシェパード犬から述べることにします。

家庭犬としてのシェパード犬

昭和6、7年頃は、陸軍の歩兵、歩兵学校を始め、民間でもかなりのシェパード犬か飼われていましたが、時節がら主として軍用犬として愛犬家の支持を受け、訓練や展覧会等でも皆その方針で行われていました。当時はこんな情勢であり、シェパード犬の使用目的も主として軍用であったために、「軍用犬」というのがシェパード犬の異名となり、また、ドイツではシェパード犬=「警察犬」ともいわれたぐらいでした。
従って、その訓練方法も、およそ家庭犬とはかけはなれた、敵対動作や犯人の捜索、逮捕、伝令等に重きがおかれたために「非常時精神」に燃えた当時の大衆から大喝采を博して広く普及しました。
もちろんシェパード犬は、使役犬、勤務として最も適するものであり、また、この根本精神なくしてシェパード犬はありえないのです。しかし、全部のシェパード犬が軍用犬であり、警察犬となるわけでなく、その大部分のものは、やはり有能な家庭犬として飼育、繁殖、飼育されるものであることは、今さら申すまでもないことでしょう。
しかし、この犬種は単に忠実な家庭犬として愛育されるばかりでなく、必要に応じては警察犬、赤十字犬、軍用犬、救難犬、盲導犬等になって、広く人間社会のために奉仕を得るという、より高い目標と理想の下に飼育愛好されるというところに、一般の愛玩犬種等に見られない飼育者の誇りと楽しみがあるのです。

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家庭犬としてのシェパードの特色

利口で忠実、従順で、しつけや訓練や容易なこと
犬の忠実性は、警戒心や勇気等と共に、本来野生の自己保存欲や種族保存欲から受け継がれたものですが、人間社会の文化が進むにつれて、犬本来の稟性や体型等が人為的に著しく改変され、走ることばっかり上手な犬、勇気や活動力の少ない犬等が出るのです。
シェパード犬は、良い性能を持つばかりでなく野生犬が家犬化してから後、いろいろな作業に使役やれ各種の環境において主人に協力してきた犬種ですから、自然頭脳が発達し、利口で服従心に富んでいると共に、逐次淘汰、改良されて、野生犬の持つ好ましくない本能を減殺するに至っているのです。
ですから、利口で忠実また、従順な犬種の1つであるといえるのです。

感覚器官が発達し、勇気と力量があり、番犬や護身犬として好適であること

番犬や護身犬を勤める場合に、警戒性に富んでいることが必要で、このためには主要感覚器官の嗅覚を始め、聴覚、視覚が発達していなければなりません。
優れた警戒、非誘惑性、勇気は犬種標準でも特に要求されている重要な素質であり、シュテファニッツ氏は、これについて「わがシェパード犬は、動物中しかもその同類中でも、その精神発達は非常に高い段階に達している。
そして、その鋭敏な五官並びにその発達過程や勤務に負うところが大きいことは確かである」といっています。ですから、シェパード犬の発達過程や勤務のことを考えますと、警戒性に富む点では、諸犬種中最たるものといえましょう。
次に、鋭敏な感覚によって危険を察知して、ただ吠えるだけでは不十分で、いざというときは、身を挺して敵に対抗しなければなりません。これはシェパード犬が軍用犬や警察犬として好適する犬であることを考えても、勇気と体力を備えていることはいうまでもありません。
シェパード犬の持つ稟性も、幼少時代から家庭の一員として苦楽や仕事を共にしてこそ、親密な信頼関係が生まれ、ここに真の服従性が発揮されるのです。ですから、犬舎に入れっぱなし、訓練所に預けっぱなし、営利一点ばかりの対象としたりするようでは、決して良い家庭犬としてはならないでしょう。

牧羊犬

現在のような形における牧羊犬の作業は、ドイツでは今から2~3000年前から始められていたもののようです。そして、ドイツや欧州諸国、濠州、南米、南アフリカ等では、今も盛んに行われています。
また、ドイツでは普仏戦争(1870-71年)時代に現代のシェパード犬の祖先である、原種の優れた能力と特性が、シュテファニッツ氏に認められ、ついに今日のシェパード犬を出現させたことは故なきにあらずと思うのです。
第一次世界大戦(1914-15)後、食料や衣類の自給自足に力をそそいだドイツでは、再び牧羊が盛んとなって今日に至ったわけで、この伝統の牧羊事業は、ドイツの至るところで行われています。
牧羊犬はどんなことをするかといえば、ほとんどの牧羊者の指導なくして、みずから柵内(大多数の場合羊は露天の柵内で昼夜共飼われている)から羊を追い出し、これを縦列にまとめて、草を食べさせる広野に誘導し、落日の薄暮晩鐘に送られながら再び羊の群れを導いて家路をたどり、これを柵内に入れるのです。
ですから、牧羊が一日に歩く(主として自然速歩、時として駈歩)距離は、数十kmに及ぶものと見られます。従って、牧羊犬は稟性が強固であると共に、主人たる牧羊者に対する絶対の忠実性と服従性をもち、かつ英知を兼ね備えているばかりではなく、強健な体力と耐久力をもっていることが必要な条件です。
それではなぜこんな立派な犬が出来るのかといえば、古来からの絶対の能力本位の繁殖の賜物であるといえましょう。ドイツの牧羊者は、この見地に基づいて繁殖し、子犬が生まれると、ごく少数の、稟性が良くしっかりしたものだけを残し、あとは全部淘汰してしまうそうです。
そして、生後4ヶ月ないし、6ヶ月から訓練を始めますが、前述のような任務を果たすようになるまでは、少なくとも2年はかかるようです。
シェパード犬は、申すまでもなくこんな牧羊犬から改良された犬種であって、あくまで使役犬であり、作業犬そのものとして今を得たのですし、また、作業犬そのものとして将来も依然シェパード犬であり得るのです。

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警察犬

警察犬、すなわち、この目的をもって訓練された犬は人間以上に繊細で優れた嗅覚および速力と忍耐力並びに格闘力等をもって、これを指導する警察官の補助として、その要求に従ってこれに仕え、もって保安のために尽すことをその任務とするものです。
それにつけても、犬を警察勤務に使い、その目的をもって訓練しようという発想は、すでに18世紀の半ば頃からフランスに芽ばえたようですが、これを組織的に採用することを示唆したのはオーストリアの大学教授で、有名な刑法学者であったハンス・グロース博士だといわれています。
そして、ドイツのヒルデスハイム市の警察署長であり、市会議長であったゲルラント博士がさっそく12頭の犬を警察犬として採用し、警官の夜警勤務に使ったのが、欧州における警察犬の始まりだと言われています。
そしてドイツでは、1899年頃からまずよい警察犬を本格的に採用することになり、まずシェパード犬をはじめ、ドーベルマン、ピンシェルおよびエアデール・テリアの三権種が採用されました。
では、わが国ではどうかといいますと、1926年(大正・15)頃、警視庁の荻原警部外数名の警官と8頭の警察犬を訓練して使用しましたが、1931年(昭和・6)に満州事変が勃発し、世を挙げて軍用犬1本に傾いたので、一時不振の状態でしたが、
戦後、再び警察犬が正式に採用されるとになり、民間においては1947年(昭和・22)に日本警察犬協会(NPDA)が発足し、さらに警視庁は1952年(昭和・27)から嘱託警察犬制度を採用し、また、警視庁直轄の警察犬班を設け、自ら警察犬と本職の警察官をもって本格的に活用するに至りましたので、大いに警察犬の実績が発揮されるに至ったのです。
そして、各府県警においても逐次これにならって、独自の警察犬班を設置するに至り、今や24都道府県にこれを見るに至っています。
なお、警察犬としてドイツが認めている犬種は、シェパード犬、ドーベルマン・ピンシェル、エアデール・テリア、ボクサー、リーゼントシュナウザー、ロットワイラーの6種類ですが、実際に使用されているのはほぼシェパード犬です。

 

警備犬

警備犬の任務は、警察の保安犬の一部とも考えられますが、警察犬が警察官憲の使う補助手段であるのに対して警備犬は民間人が警備の用に使うものであるといえます。従って、民間人は検察権をもってないのですから犬の動作は似ていても、あくまで犯罪の予防と防護に徹するという精神が警察犬とは違うのです。
例えば、倉庫の警備に犬を使い、盗賊が侵入しようとした場合、警備犬は吠えてこれを主人に知らせ、動作をまじえてこれを威嚇し、侵入を防止したためにその盗賊が逃げたとすれば、警備犬の任務はそれで達成されたのです。この意味において、家庭の番犬も一種の警備犬といえましょう。
では、警備犬はどんなところに使われるかといえば、家屋敷の番をはじめ、倉庫、工場その他の建造物、デパート、空港、田畑、山林等の警備の外、さらに夜間やぶっそうな田舎道等を歩くとき、主人や家族はもとより、郵便配達者、医師や看護士等の伴侶犬等です。

税関犬

わが国は、税関犬を使う場合は少ないのですが、欧米では、彼らの鋭敏な嗅覚えお使って、特殊な密輸品や危険物の発見、特に近時麻薬の発見に著効があるということを認められ、各国の税関でこれに使われることが多くなったことは注目に価することでしょう。
欧米のように陸続きで国境を接する国々では、税関勤務はなかなか大変な事業で、ドイツのようにその大部分が他の国々と陸続きでつながっている国では、税関勤務は完全に独立した警察勤務となっています。
そして税関犬は、税関吏の防護、逃走する密輸犯人の追跡、押収品の観察、時として臭跡追求作業にも使われていますが、前述のように近時は疑わしい密輸物品特に麻薬や危険物の深索発見のためにも使われるようになりました。

鉄道保安犬

鉄道保安犬は線路の警備、トンネルや橋梁の監視、鉄道倉庫等の監視、貨物輸送の安全確保等に使用されるもので、欧米諸国では、19世紀の始め頃から盛んに活躍して効果を挙げています。

軍用犬

犬を戦闘犬として使った歴史は非常に古く、すでに古代アッシャリヤの時代から、民族の移動等の時、その護衛に用い、しばしば敵との戦闘の武器として使用し、一部は鎧をつけたものさえありました。
しかし、今日における軍用犬はこんなものではなく軍の活兵器として、その警戒心を、鋭敏な感覚、軽快な速力を利用し、最初は主として歩哨兵の随伴犬として用いられ、警戒や巡察並びに哨兵と本隊間の短距離の伝令等で活躍しました。
そして、1904~5年頃に、ドイツやベルギー等でも軍用犬の必要性を感し、これらの勤務の外、兵器、糧秣や交通路、さては捕虜の監視等、主として警備任務に使用しましたが、体一次世界大戦で、電信電話線が寸断されるようになり、当時の通信機材ほとんど用をなさなくなったとき、伝令犬の活躍が重要な通信機能となり、ここに伝令犬のめざましい働きを見るに至ったのです。
そして、第二次世界大戦までは、ドイツ軍における軍用犬使役の主目的はまさにこの伝令犬であったのです。そして、わが国においても大正8年(1919年)、すなわち、第一時世界大戦後から、欧州の戦線における軍用犬の活躍に注目するようになり、陸軍歩兵学校で小規模ながら軍用犬の研究が開始されるようになったのですが、軍用犬熱が急速に高まり、その翌年7年には陸軍省監督の下に社団法人帝国軍用犬協会(KV)が誕生し、陸軍においても続々軍用犬を第一線に送り、伝令、警備、地雷の発見などに相当の高価を挙げました。

災害救助犬

地震などの自然災害の現場で、人命救助に役立たせる作業で、危険を伴いますが優れた嗅覚を利用して、見えない場所にいる人間捜索をする作業です。人間を発見すれば、砲哮するよう、訓練で鍛えられています。

盲導犬

盲導犬は救難犬や衛生犬(赤十字犬)と共に、最も人道的な犬の使用法として貴いものだと思います。
盲導犬は、都市等の雑路した街路上を安全に盲人を誘導し、道路の凹凸や交通障害者に対し、これを回避したり、あるいは適時に停止して盲人を安全に導くもので、周到な訓練を必要とするものです。

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聴導犬

聴導犬は家の中の音だけでなく、どこにでも同行し、聴覚障害者の方々を災害や事故に巻き込まれる危険性を回避することを目的としています。睡眠時だけでなく、デパートや宿泊先でなどの外出中にでも、警報機(煙報知器など)の音は「伏せ」をして危険だと知らせす。有事の際の非難確認のドアノック等を教えます。
この他にも、家の中では、目覚まし時計の音から、料理タイマーの音、ドアベルの音、FAXや電話の音、赤ちゃんや幼児の泣き声や、人を呼んでくるといった様々な仕事をしてくれます。

介助犬

介助犬は、肢体障害者(手足が自由に動かない人)のために、手足のかわりとなって、動作介助をする犬です。落とした物を拾ったり、鞄を持って歩いたり、遠くの物をとってきたり、エレベーターのボタンを押したりします。このような介助の内容は、障害者一人一人に合わせて訓練されます。
日本では、盲導犬は法律で認められ、国から援助があり、すべての交通機関の利用が認められ、どこでも出入り出来ますが、介助犬は事実上ペット扱いで援助はなく、一頭一頭、交通機関のテストを受けて合格した犬だけしか認められません。その他の施設もその都度、許可をもらわなければなりません。